はじめに
年金は、我々みんなが高齢期にも安心して暮らせるよう設計された、重要な公的制度です。しかし、その受給開始時期を決める際には、自分自身の状況に応じて慎重に検討する必要があります。受給開始時期によって、受け取れる年金額が大きく変動するからです。本記事では、年金の受給開始時期と受給額の関係、そして損益分岐点について詳しく解説します。自分に最適な選択ができるよう、しっかりと理解を深めましょう。
受給開始時期と受給額の関係
まず、年金の受給開始時期によって、受給額がどのように変化するのか確認しましょう。
標準受給開始時期(65歳)との比較
一般的な標準受給開始時期は65歳ですが、これよりも早めて受け取る「繰上げ受給」を選択した場合、受給額は大きく減額されます。一方、受給開始時期を遅らせる「繰下げ受給」を選んだ場合は、受給額が増額されます。具体的には、以下のようになります。
- 60歳から受給開始すると、受給額は65歳の場合に比べて24%減額される
- 75歳まで受給開始を遅らせると、受給額は65歳の場合に比べて84%増額される
つまり、年金の受給開始時期を遅らせるほど、受給額が増えることがわかります。逆に、早めに受け取ると受給額が減るというデメリットがあります。
繰下げ受給の具体例
より具体的に繰下げ受給の効果を見てみましょう。仮に、65歳時点で年金を月15万円もらえる人がいたとします。この人が68歳まで年金の受給を繰り下げると、毎月約18.7万円(15万円の1.24倍)の年金を受け取れるようになります。一方、それまでの年金を一括で受け取る場合は、過去3年分の年金額である540万円を受け取ることができます。
損益分岐点
年金の繰上げ受給や繰下げ受給には、それぞれ損益分岐点が存在します。この分岐点を理解することで、自分に最適な受給開始時期を見極めることができます。
繰上げ受給の損益分岐点
繰上げ受給の損益分岐点は、受給開始時期から概ね20年10ヶ月後となります。具体的には、60歳から年金を受け取り始めた場合、80歳10ヶ月を超えると、65歳から受け取った場合に比べて損をするようになります。つまり、80歳10ヶ月未満であれば繰上げ受給がお得ですが、それ以上長生きした場合はデメリットになります。
このように、繰上げ受給は早期に年金を受け取れるというメリットがある一方で、長生きすればするほど不利になるというリスクも存在します。自身の健康状態や寿命予想を踏まえ、慎重に検討する必要があります。
繰下げ受給の損益分岐点
一方、繰下げ受給の損益分岐点は、受給開始時期から概ね11年11ヶ月後となります。つまり、75歳まで年金の受給を遅らせた場合、86歳11ヶ月を超えると、65歳から受け取った場合に比べて得をするようになります。
繰下げ受給には、受給開始時期が遅れるデメリットがありますが、長生きすればするほど有利になるというメリットもあります。自身の寿命予想や、受給開始を待つ間の生活費確保などを総合的に勘案し、最適な時期を判断する必要があります。
その他の注意点
年金の受給開始時期を決める際には、損益分岐点以外にも、様々な注意点があります。
加給年金への影響
繰下げ受給を選択した場合、加給年金の額は増額されません。加給年金は、65歳以上で配偶者や子どもを扶養している人が受け取れる年金で、繰下げによる増額対象外となっています。家族構成によっては、加給年金のメリットが大きい場合もあるため、注意が必要です。
所得税や社会保険料の影響
繰下げ受給を選択すると、受給額が増えるため、所得税や社会保険料の負担が増える可能性があります。手取り額で損益分岐点を確認する必要があります。
例えば、65歳で受給を開始する場合と比べて、60歳繰り上げの損益分岐点は約82歳2ヶ月、75歳繰り下げの損益分岐点は約89歳2ヶ月となります。額面ベースの分岐点とは異なるため、注意が必要です。
個人型確定拠出年金(iDeCo)の活用
公的年金に加えて、個人型確定拠出年金(iDeCo)など、私的な老後資金の準備も重要です。iDeCoは、拠出時と運用時の非課税メリットがあり、老後資金として有効に活用できます。年金の受給時期を決める際には、iDeCoの残高や引き出し時期なども考慮に入れましょう。
まとめ
年金の受給開始時期は、受給額に大きな影響を与えます。早めに受け取れば受給額は減りますが、遅らせれば増額されます。損益分岐点を理解することで、自分に最適な時期を選ぶことができます。また、家族構成や税金、私的年金など、様々な観点から総合的に検討する必要があります。
自身の状況に合わせて、最善の選択ができるよう、しっかりと情報を収集し、考え抜くことが重要です。老後に安心して暮らせるよう、賢明な判断を心がけましょう。
よくある質問
年金受給開始時期はいつから選べますか?
年金の受給開始時期は、一般的な標準受給開始時期である65歳よりも早めて60歳から、あるいは遅らせて75歳まで選択できます。受給開始時期によって、受給額が大きく変動するため、慎重に検討する必要があります。
年金受給額はどのように変わりますか?
年金の受給開始時期を早めると(60歳から)、受給額は65歳の場合と比べて24%減額されます。一方で、受給開始時期を遅らせると(75歳まで)、受給額は65歳の場合に比べて84%増額されます。つまり、受給開始時期を遅らせるほど、受給額が増えることがわかります。
損益分岐点とはどのようなものですか?
年金の繰上げ受給の損益分岐点は受給開始時期から概ね20年10ヶ月後、繰下げ受給の損益分岐点は11年11ヶ月後となります。これらの分岐点を超えると、それぞれの選択が得か損かが変わるため、自身の寿命予想などを踏まえて慎重に検討する必要があります。
その他の注意点はありますか?
年金受給開始時期を決める際には、加給年金への影響、所得税や社会保険料の負担増、iDeCoなどの私的年金の活用なども考慮に入れる必要があります。これらの要素も含めて、自身の状況に合わせて最適な選択ができるよう検討することが重要です。
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